アロマテラピーの歴史。
近代以降の後編です。前編はこちらから。
「“Aromatherapy”の誕生」
1850年〜1950年頃までは、ヨーロッパやアメリカ、東アジアの各国で紛争や戦争が続き、それと同時に科学技術や医学が目覚しい進歩を遂げました。
医療の中心は西洋医学が担うようになり、
外科手術やレントゲンなど高度な医療技術が発達していきました。
化学合成で薬が作られるようになったのも、この頃です。
植物を利用した療法は、地方で「暮らしの知恵」として息づいていましたが、
大きな拡がりを見せてはいませんでした。
1927年、香料会社を経営していたルネ=モーリス・ガットフォセが精油をを用いた療法を
「Aroma(芳香)therapy(療法)」と名付けます。
彼は、会社経営者でもありましたが、医術や化学にも造詣が深く、1937年には「Aromathérapie」を出版、植物に含まれる芳香成分の特性や、心身の治療への用法などを体系的に記しています。
彼自身がひどい火傷を負い、その治療の過程にラベンダー油を使用したところ、
効果があった事も彼の精油への興味を後押ししたと思われます。
第二次世界大戦の影響からヨーロッパが立ち直り、
人々が価値観の多様性を認め始め、それぞれにとっての豊かな人生を求める流れが
大きくなっていた1961年、ルネ=モーリス・ガットフォセの元でアロマテラピーを学んだ、マルグリット・モーリーが「Aromathérapie」の書籍を英訳し、イギリスに紹介します。
彼女は、精油を植物油で希釈して行うマッサージの技法を確立しました。
「イギリスとフランス」
ここからアロマテラピーは、「リラクゼーション」と「療法;医療」の二つに
その利用法が大きく分かれることになります。
イギリスでは主に「リラクゼーション」として、そしてフランスでは「療法」として、
それぞれ発展していくことになります。
イギリスでは、その後1977年にロバート・ティスランドが「The Art of Aromathrapy」を出版した事により、アロマテラピーによるマッサージがさらに拡がっていきます。
日本でも1985年にこのティスランドの著書が邦訳出版されています。
一方フランスでは、1964年に医師であるジャン=バルネによって「植物=芳香療法」が出版され、精油の薬理作用が知られるようになります。
さらに1990年に入ると、医療における精油のケモタイプの重要性や、臨床での効果の認知が拡がっていきます。
1994年、薬剤師であるドミニック=ボドゥー氏が来日、フランスでのアロマテラピーに関する講演を行い、1997年には「アロマテラピー大全」が邦訳出版されます。
こうしていわゆる「イギリス式」「フランス式」のアロマテラピーが
日本に伝わってきたのです。
「日本におけるアロマテラピー」
現在日本において精油は薬ではなく
「雑貨」として位置づけられています。
それには幾つかの理由がありますが、自然の植物から作られる精油は、
化学薬品のようにその成分を厳密に一定に保つ事ができないことが理由の一つです。
また、フランスでは病気の治療の一環として
精油を用いる事がありますが、その処方箋は医師が書きます。
日本で言うところの「漢方」の位置づけになりますでしょうか。
日本では、精油が薬品ではないこと、また知識をもつ医師が少ないこと等の理由により
医療現場で治療の一環として精油を用いることはかなり限られています。
そうした背景から日本ではいわゆる「イギリス式」=リラクゼーションのための
アロマテラピーが広まり、現在に至っています。
ですが、現在イギリスではアロマテラピーが補完医療として広く認められており、
闘病中の患者へのケアとしてアロマテラピーが行われるなど、
医療従事者の間でも、その効果を評価する姿勢は高まっているようです。